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1999年5位、昨年、記録無しと今年でフランス大会に参戦して3年目となる。
世界1位を2分するMICRO
JOULE(現世界記録保持)、TIM(昨年度優勝)のホームグラウンドである本大会に世界中の強豪達が打倒MICRO JOULE、打倒TIMを合言葉に鼻息も荒く集まってくる。そして、レース後、彼等の余りの強さに打ち砕かれて帰っていくのである。
我らがFANCY
CAROLも昨年まではその中の1チームであった。しかし今年は違ったのである。本当に違ったのである。以下、その状況を紹介したいと思う。 |
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広島からフランス南部NOGAROサーキットまで車で1500km、航空機で12000km片道トータル3日の強行軍である。予算の少ない我々は、エコノミー席、自炊、車の故障も自力で直す等、とにかく必死でNOGAROを目指す。
でどうして、そこまでしてこの大会に参加するのかというと、MICRO
JOULE、 TIMという怪物のように強いチームがいるからだ。
1999年に初めて見た彼等のすばらしいマシン、流れるような走り、研究所のような解析主体のピットワークはとても衝撃的だった。そして、日本の技術レベルはまだ世界には届いていないと悟ったのだ。その日以来、”打倒 MICRO
JOULE、打倒 TIM"に益々情熱を燃やすようになったのだ。 |
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********** 6/7(木)車検、公式練習1日目 **********
高速道路上で車が故障し、修理に時間がかかったため、午前3時にNAGAROについた。
軽く睡眠を取ってエントリしに行くと今年から、車検はチーム毎、時間指定になっており、昨年度は記録無しのFCは、明日の11時からとなっていた。今年はかみさんがドライバーなので、昨年のことも考え出来るだけ沢山練習させたいが明日の昼からではほとんど練習できない。
そこで、車検に間に合わないチームの所に入れて頂けるように車検場の前でしばらく待つことにした。
地中海からの日差しにより日中の気温は30℃を越すほど暑い。
待っている間、ヨーロッパ各国のチームの人達がFC独特のボディ形状が珍しいのか集まってきては、ワイワイガヤガヤ性能を予測したり、機能を評価したりしている。設計思想等を問われると”小型、シンプル、機能優先”の開発思想はゼロ戦開発から受け継がれている”というコメントをすることにした。まんざら間違っていないのではないかと思う。 |
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2時間ほど経って車検が受れることになった。
昨年から、ドライバー重量が45kg以上に変更されウエイトハンディ無しで競技ができるようになった。
また、今年はスターターモーター駆動時にランプをつけることが追加され、スターターモーターで走行していないか走行中チェックされることになった。
毎年、厳正な競技を運営していこうとする主催者の努力には敬意を表する。
今回初めて通訳なしで車検を受けたが、何とか通すことができた。 |
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練習走行を17:00から開始し3.6kmのコースを規定と同じ6ラップし、消費量7.7ccで2833km/L。
昨年は1周もまともに走れなかったが、今回は走ることができて一安心。
しかし、エンジン始動不良が毎回発生しており、始動できずに止まることもあるとドライバーから改善の要望をされた。
原因はピストンリングからのガス漏れ量をほとんど無くしたため、エンジンのコンプレッションが上がり過ぎているためだ。そしてセルモーターが完全にエンジンを回しきれない状態になっているのだ。おそらくコンプレッションは30kg/cm2前後になっているだろう。
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対策としては、通常のエンジンのようにガス漏れをさせるか、それとも圧縮比を下げるか。何れにしても、エンジンベンチで性能を確認できないところが問題である。
練習時間が終了したので取り合えずそのままにしてピットに帰ることにした。
ピットに戻ると昨年の覇者TIMが新型車TIM03の一般公開していたので見せて頂いた。
新型車は旧車のデザインを踏襲しており、大きな変更点は空力形状の改善と車重が24kgまで軽量化されたことだ。ポテンシャルは大幅に改善されている。
このマシンの特徴は、何と言っても吸気量28ccのアトキンソンサイクルのエンジンだ(排気量は機密事項とのこと)。シルクとマイクロバルーンを使った軽量高剛性の樹脂ボディもユニ-クだ。このボディは補修がとても簡単なのだそうだ。
そのほかに目を引くのがキングピンレスのステアリングシステム。通常、軸を介してホイールに操舵角をあたえるが、TIMの場合、1枚のバネ鋼をを曲げて操舵させており、極端な軽量化と剛性アップを実現している。マシンの全体の品質もF1マシンと引けを取らない仕上がりである。
チーム監督である鬼才メーゲレ教授の技術センスには、いつも驚嘆させられる。このすばらしいマシンに対して、我々
がどこまで闘えるのか不安は募るが、できることを精一杯行なって最善を尽くしたいと思う。 |
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ピットに戻って痛んでいたボディの修正を行ないながら、始動不良の対策を検討した。明日の完全なコンディションにするためには、工数が少なく、性能に影響を与えず、材料が入手できるものでなくてはならない。いろいろな選択肢があるが、バッテリー電圧アップを採用することにした。ラジコン用7.2VのNiCd電池を直列にして、スターターのみ14.4Vで駆動するように配線変更した。NiCd電池をベストな状態で使うための放電器が必要であるが、予備のセルモーターで代用した。
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6/8(金)公式練習 2日目**********
曇り空ながら気温は30℃になった12:00に2回目のスタートをさせた。
エンジンは一発で始動するので、昨日と比べてどこまで記録が伸びるか期待が高まる。息を呑んで周回を見守り、無事6Lapを終えてゴールしてきた。
2人だけでまごまごしているのを見かねてか、我々の直前にゴールしたフランスチームが燃料消費を計測してくれることになった。
FC号のタンクを見るや、本当に6Lapしたのか?とびっくりしていたのがとても印象的であった。
計測すると6.05ccであった。温度補正をしていない状態だが3606km/Lという記録になる。
正確に測るため放置し完全に常温まで燃料を冷却した後、再度燃料を注ぐと0.3ccさらに入った。スタート前の燃料温度は常温よりもゴール時の温度に近いため、低めに見積もって0.15ccをカウントし、6.2ccの消費。3519km/Lの世界記録となる。
世界記録を樹立できるかもしれない・・・・・・。長年の目標を達成できる・・・・・と考えると一気に緊張が増してきた。
まだコースにも慣れていないし、TIM、MICRO
JOULEも記録を伸ばしているかもしれない。そう思うと安定して記録が出せるようにもっと走りこんでおきたい。
早速3回目の走行をさせると1周半でストップ。サルベ-ジに乗せられて帰ってくると燃料コックを開けるのを忘れていたことがわかった。。大分緊張しているのだろうか。疲労からだろうか。
今度は間違いなくコックを開いて4回目のスタートをさせるとまたも1周半でストップ。サルベ-ジに乗せられて帰ってきてから状況を聞くとセルモータが回らないらしい。
チェックしてみるとドリブンギアが緩んでいた。もっと練習しなくてはという焦りから、適正な工具がない中でプライヤーで無理にボルトを外そうとした時、点火用のシグナルプレートの角度をずらしてしまった。
" なにっ・・・・”点火タイミングはエンジンベンチテストでベストに合わせているが、角度の表示が正確にできない構造になっており、一度ずらすともとにはもどせないのだ。
ショックが大きく、自分を取り乱しそうになっているところに、今度はオフィシャルが2人やってきて、”明日の燃料計測はより正確にするため、車載した全ての燃料の重量を測るが、この方法を選ぶか”と尋ねてきた。
ヨーロッパの燃料計測はとても厳格で正確だが唯一温度補正が燃料タンクのみで行なわれるのが気になっていたので、喜んでOKした。 |
しかし、この方法だとスタート前にエンジンをかけて暖機ができなくなるため、暖機用のヒーターが必要になる。
FCのエンジンにも内部ヒーターがついているが断線して故障中である。エンジンをばらすと性能に影響を与えるので、今回はシリンダーの外側を加熱することにした。
運良くPhilippe氏の友人がニクロム線を持っていたので、それをシリンダーの外周に巻いて対応した。
ドリブンギヤも分解洗浄し、外れないようロックタイトをつけて装着した。
そして、気になる点火タイミングは、正確に位置の決まらないメモリを頼りに再調整した。ずれていないことを祈って・・・・。 |
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時間は既にAM3時を過ぎていたが、対面のTIMのピットでは、シャーシーローラー上でエンジンの性能評価をしており、並ならぬ気迫が感じられた。どのチームも夜を徹して最後の調整を行なっている。明日からいよいよ勝負である。ベストコンディションで臨めるよう、すぐに就寝した。
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6/9(土)決勝1日目***
午前8時半からTIM、MICRO JOULEを初めとするトップ6チームに対して、新燃料計測方法についてのブリーフィングが行なわれた。
内容は1人の熟練した計測員が一連して燃料重量の計測し、マシンへの脱着を監視するというもの。計測能力の個人差や、温度補正によらず、ダイレクトに計測できるところが画期的だ。恐ろしく手間がかかる方法を、しかも、年々記録が向上し、微小燃料消費差で勝敗が決まろうとする中ではあるが、問題が発生する前に仕組みを替えようとする行動力は賞賛に値する。
右はFCの計測写真。インジェクター、燃料タンクと合わせて全32ccのガソリンの重量が計測される。どのチームも当然のことながら、フュ-エルインジェクションである。
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本日は昨日とは打って変わって気温が下がり12時になっても20℃しかない。
燃費は温度に敏感である。温度感度は約0.5%/℃なので、昨日の記録から計算すると175km/L下がることになる。とは言っても気温がこれ以上上がりそうにないので、スタートさせることにした。
昨日と違いコースに慣れたためかコーナーリングもスムーズになってきた。3Lapした所で”コーナーリング中、後から追突されコースアウトした。ステアリングがめちゃくちゃになった。”と悲鳴のような声で連絡が入った。
サルベージュでピットに戻ってきたマシンをチェックすると、ボディーの損傷はほとんどなく、タイヤの傷と、ナックルに付いているロッドエンドが変形していただけだったので最悪の事態は免れることができた。時間がないので、キャンバー角はシム調整でそこそこ直し、燃費に影響の大きいトーインのみしっかり合わせることにした。
そして、13:40に再スタートさせた。6Lapを規定時間より約2分早くゴールし、燃料消費は5.07g/6.789ccで記録3213km/L。TIM、MICRO
Jouleに続く3位についた。
TIMは昨年の自ら記録を大幅に越える3437km/Lという記録を打出していた。 |
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まだコースには完全には慣れていない、まだまだ挽回のチャンスはある。
そう自分に言い聞かせて、タイヤの空気圧を5kg/cm2に上げて16:00に2回目のスタートをさせた。
気温は21℃。TV撮影の車が伴走し続け、ペースやライン取りが乱れることを心配しながら見守っていると前回と同様2分近く早くゴールラインにはいってきた。かなり緊張しているのだろうか、ゴール直前で急にハンドルを切り段差に乗り上げてしまった。
幸いにも下りであったため、そのままコースに復帰し、エンジンをかけることなくゴールできた。後で聞いてみるとゴールラインを間違えたと思ってとっさに切ってしまったとのこと。 |
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計測員が来るのを待って、インジェクターから燃料タンクまでをマシンから取り外し、計測ルームへ持ち込んだ。
計測すると消費量は4.73g、3444km/Lでトップに立った。TIMとは0.01g差ではあるがとにかく現時点1位になったのだ。
決勝レースは2日間で2回ずつ4トライできる。明日の天候次第では、順位は簡単に入れ変わるし、世界記録も打出すことが可能だ。ここは気を引き締めて明日の準備をしなければいけない。
と、自分達に言い聞かせて、明日の準備に取りかかった。
エンジンの断熱を強化し、ホイールアライメントをチェックし、etc.深夜まで作業が続いた。明日の晴天を祈りながら・・・・・。
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朝7:30に起床すると小雨が降っており、昨日よりもさらに気温が下がっている。そして、天候の回復を祈りながら正午まで待ったが雨が止んだだけで気温も18℃と低いままである。路面も所々濡れており、コンディションはかなり悪い。
今日の最終スタートは14:30であるので、そろそろスタートしないと2回のトライヤルができなくなる。状況が悪いながらにも記録が出ないとは限らないと考えているうちにTIMがスタートさせていた。FCも少し遅れてスタートさせることにした。
そして両者とも無事ゴールし、燃料消費はTIMが5.5g、FCが4.9gでいずれにしても昨日より多くなっている。
そして結局どのチームも記録を更新できず、我がFCが昨日の記録のまま優勝を勝ち取ることとなった。
表彰台に上がると”君が代が”流れ、長年の夢である世界一になった感激に酔いしれた。
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